戦利品
ここに一本の口紅がある。
この口紅は自分で買った物でもなければ、友人や彼氏にもらったプレゼントでもない。
しかしこれは決して忘れられない思い出のプレゼントであり、この口紅を見る度にあの日のことを思い出す。
数年前、当時田舎の大学生だった私に、東京に遊びに行く機会があった。
あまりお金がなかった私にとって、東京はそう何度も行けるものではなかったため、前日は嬉しくて眠れなかった程だ。
そしてその日がやってきた。
銀座、原宿、新宿、渋谷...。「今日は一日中歩き倒すぞー!!」と張り切りまくっていた私。
足腰の強さには自信がある。
東京モンには負けはしない。
そんな気概を持って意気揚々と歩いていた田舎者に、事件は起きた。
−新宿−
何を買うでもなくデパートやら大きな本屋やらうろうろしていた私に、声をかけてきた男がいた。
20代。学生風。世間ではわりとイイ男で通用しそうな人だ。
しかしいくら田舎者の私とて、そんなことで色めきたったりはしない。自分の容姿のことは自分が一番よく分かっている。
男はナンパ目的で私に近づいてきたわけではないだろう。
「どうやら何かの勧誘らしいな。」しかし、そう思った頃には、時すでに遅し。
東京の人はこういう時、うまくかわせるものらしいが、田舎者の私は素直に呼びかけに応じてしまったからさあ大変。
「あの、急いでるんで..」と言って小走りに去ろうとする私に対して、必死に食い下がる男。
逃げたい女と逃げられたくない男。
二人のスピードは瞬く間に速くなり、はたから見れば「競歩?」と見られかねないほどであったに違いない。
かつてこれほどまでに速く新宿の町を歩いた人があっただろうか。
そうこうしているうちにもう逃げられないと思った私は、男の言うままに雑居ビルの中についていくことにした。連れていかれたのは、2階だったか3階だったか。
記憶は定かではないが、気がつくとどこかの事務所のようなところにいて、私はそこで男に、
「はい、プレゼント。」と口紅をひとつ渡された。
その後若い女性に身柄を引き渡された私は、世間話も交えつつ、延々とエステの話を聞かされることとなる。
−ピンチ!−
こんなどことも分からない雑居ビルに連れ込まれてしまったからには、高い金を払ってエステに通うと言うまでは、家に帰してもらえないかも知れない。
しかし学生である私に金はない。
だからこの時、私は何があってもエステを断ると心に決めた。
勧誘されたくない女と勧誘したい女。
そこからはもうお姉さんと私のデッドヒートだ。
小心者ゆえにはっきり断れないのだが、それとなく「エステには通えない」と伝える私。
その気持が伝わっているであろうにも関わらず「体のどの部分がやせたい?」と聞くお姉さんもお姉さんだが、「ふくらはぎが..」等と質問に答えている私も私だ。
30分はそこにいただろうか...
この時間がいつまで続くのか..と不安になり始めたころ、お姉さんはイライラし始め、私を見限ったのか、「お疲れさまっ!!」と怒ってその場を去っていってしまった。
あー怖かった。
ほっとしたのもつかの間、私は急いでその場から逃げるように走り去った。
....もう2度と勧誘には引っ掛かるまい。
そう思いながら私は今出てきた雑居ビルを見上げた。
その手には戦利品である男からプレゼントされた口紅がしっかり握られていた。
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コメント
こんばんは。
わたしも似たような経験あります(笑)
断りきれなくて話を3時間くらい聞かされましたが、すみませんが、いりません。って
ちゃんと断りました。真珠のネックレス。
東京はこわいなぁとかんじた学生時代でした。
投稿: もさこ | 2004/12/22 21:58
もさこさん、はじめまして。
もさこさんも大変な経験をされてたのですね。
まさに東京砂漠!(意味不明)
東京は怖いですね。
それにしても真珠のネックレスは高そう。
買わされなくてほんとに良かったです!
投稿: おおたま | 2004/12/23 15:14